狭山茶(さやまちゃ)とは、埼玉県南部の狭山丘陵地域で生産されるお茶のことです。
日本三大茶のひとつにも数えられており、いったいどのようなお茶なのか気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、狭山茶の3つの特徴や主な産地、旬の時期などについてご紹介していきますので、ぜひ、参考にしてみてください。
狭山茶とは?
まずは、狭山茶がどのようなお茶なのかということについて解説していきます。
茶摘みの唄
お茶が好きな方なら、「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」というフレーズを、1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
この俚諺(りげん)の起源は定かではありませんが、古くから狭山茶の産地周辺で知られており、一説には茶業者がお茶の宣伝のために作ったものだと言われています。
狭山茶は古くから銘茶として知られていたことがうかがえますね。
日本三大茶のひとつ
日本三大茶とは、茶摘みの唄で謳われているように、「静岡茶」「宇治茶」「狭山茶」のことを指します。
名前からも分かるように、静岡茶の産地は静岡県、宇治茶の産地は京都府、狭山茶の産地は埼玉県です。
狭山茶は生産量が少なく希少なため、最近では生産量の多い「かごしま茶」を日本三大茶と呼ぶこともありますが、狭山茶の歴史は古く、その起源は鎌倉時代にまでさかのぼります。
主な産地
狭山茶の主な産地は、埼玉県狭山市、入間市、所沢市です。
狭山茶という名前から、狭山市での生産量が最も多いと思われがちですが、実際には、狭山茶の約60%が入間市で生産されています。
武蔵野台地は狭山茶の一大産地で、降水量の多さと水はけの良い土壌がお茶の栽培に適していたため、お茶の栽培が盛んに行われるようになりました。
狭山茶の歴史
鎌倉時代に宋から持ち込まれたお茶の実をまいたことが日本のお茶栽培の起源といわれています。
江戸時代に入ると、特産物として狭山丘陵地域で盛んにお茶が栽培されるようになりました。
当時、この地域は河越藩が治めていたことから「河越茶」と呼ばれていましたが、明治時代になると、お茶の貿易会社である「狭山会社」が設立され、輸出用のブランド名として「狭山茶」という名称が用いられるようになり現在に至ります。
旬の時期は?
狭山茶の1番茶は、4月下旬から5月下旬にかけて収穫され、この時期に収穫されたものが旬の狭山茶ということになります。
1番茶(新茶)とはその年の1番最初に収穫される茶葉のことで、お茶の木の新芽若葉を摘んだ最も品質の良い茶葉です。
暖かい地域では、春から秋にかけて1番茶、2番茶、3番茶と、年に4から5回ほど茶葉を収穫します。
狭山茶は涼しい地域で生産されるため、収穫できる期間が短く6月下旬から7月中旬にかけて収穫される2番茶でお茶のシーズンが終わります。
主な品種
ひとくちに狭山茶と言っても、全て同じ品種を栽培しているわけではありません。
狭山茶の産地で生産されている代表的な品種は以下の通りです。
やぶきた
全国的に最も多く生産されている品種で、国内で生産されているお茶の約75%がやぶきたです。
埼玉県で生産されるお茶も約70%がやぶきたとなっています。
やぶきたは、1908年に杉山彦三郎が在来種の中から発見した品種で、山を切り開いて作った北側の茶園に植えられていたことから、やぶきたと命名したと言われています。
煎茶としての品質に優れており、渋味と甘味のバランスが良いのが特徴です。
さやまかおり
さやまかおりは、栽培面積が全国で3番目に多い品種で、ほかの品種より比較的容易に栽培できると言われています。
お茶の木はもともと亜熱帯性の植物ですが、さやまかおりは寒さに強いため、狭山丘陵地域のような寒冷な地域での栽培に向いています。
芽の数が多く、香りが強いのが特徴の品種です。
ふくみどり
ふくみどりは、爽やかな香りが特徴の品種で、1986年に埼玉県の推奨品種として採用されました。
やぶきたと23F1-207という品種を交配して開発された埼玉県発祥の品種で、見た目はやぶきたに似ていますが、やぶきたより収穫量が多く、寒さに強いという特徴があります。
玉露用の品種として生みだされ、現在では狭山茶を代表する品種のひとつになっています。
製法
狭山茶は、狭山火入れという独特の工程を経て作られます。
ここでは、狭山茶がどのようにして作られているのかを解説していきます。
製造工程
狭山茶の製造工程は、ほかの産地の煎茶と基本的に同じですが、荒茶を製造した後の仕上げの工程がほかのお茶とは少し異なっています。
荒茶の製造工程
荒茶の製造工程は以下の通りです。
- 収穫
- 蒸熱
- 冷却
- 葉打ち
- 粗揉
- 柔捻
- 中捻
- 乾燥
- 荒茶完成
お茶の葉は放っておくと、酸化酵素の働きによって発酵が進むため、熱を加えて酸化酵素の働きを止めます。
発酵を止めた茶葉を揉みながら乾燥させることで荒茶が作られます。
仕上げ工程
仕上げ工程は、荒茶の形を整えて、乾燥、合組(ブレンド)する工程で、以下のようになっています。
- 選別・整形
- 火入れ
- 合組
仕上げ工程で、商品としてのお茶の最終的な味や香りが決まります。
また、「選別・整形」と「火入れ」の工程はメーカーによって、順番が逆になる場合もあります。
狭山火入れとは?
先に解説した通り、煎茶の製造では、荒茶を製造した後、「選別・整形」→「火入れ」→「合組(ブレンド)」という仕上げの加工を行います。
火入れは、荒茶の水分を飛ばしながら香気を生成する工程で、狭山茶は一般的な煎茶よりも強く火入れを行います。
この特殊な火入れは「狭山火入れ」と呼ばれ、これにより狭山茶特有の香ばしい香りが生まれます。
狭山茶の3つの特徴
ほかのお茶にはない狭山茶の3つの特徴について解説していきます。
1、希少性が高い
先に解説した通り、暖かい地域のお茶の産地では、年に4から5回ほどお茶を収穫します。
狭山茶の産地である狭山丘陵地域は、年に2回しか収穫できないため、狭山茶の生産量はほかの地域と比べると少なくなっています。
加えて、狭山茶の産地の周辺の人口が増加したことで、地元での需要も増加し、狭山茶の多くが地元で消費されるため、ほかの地域に流通しにくくなっています。
そういった理由から、狭山茶は希少性が高くなっているのです。
2、茶葉が厚い
狭山茶は、一般的な煎茶よりも強く火入れ行う「狭山火入れ」という工程があることを先にご紹介しました。
この独特の火入れは、ほかの産地では簡単に真似することができません。
その理由は茶葉の厚みにあり、寒冷な地域で育った茶葉は、暖かい地域で育った茶葉と比べると育成が遅く葉が厚くなります。
薄い茶葉で狭山茶のように強く火入れを行うと、茶葉がダメになってしまいます。
狭山火入れは、茶葉が厚く育つ寒冷な地域だからこそできる加工なのです。
3、火入れ香
狭山茶最大の特徴は、狭山火入れによって生みだされる火入れ香にあります。
火入れ香とは、茶葉が黄色くなるまで強く火入れすることで生成される香ばしい香りのことです。
これにより、狭山茶の濃厚なうま味が一層引き立てられ、独特の味わいを生みだしているのです。
まとめ
- 狭山茶とは、埼玉県南部の狭山丘陵地域で生産されるお茶
- 一般的な煎茶よりも強く火入れを行う狭山火入れという工程がある
- 5月下旬から6月下旬が旬の時期
- 狭山茶の特徴は、希少性の高さ、茶葉の厚さ、火入れ香にある
狭山茶の3つの特徴や旬の時期について解説しました。
生産量が少ないことと、地元での需要の高さから、ほかの地域で手に入れるのは難しいですが、手に入る機会があれば、一度試してみてはいかがでしょうか。