うれしの茶(嬉野茶)は、佐賀県や長崎県で生産されるお茶のブランドで、玉緑茶の生産が盛んなことで知られています。
また、中国式の釜炒り製法を今に伝える産地としても知られていますが、生産量が少ないため飲んだことがないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、嬉野茶の特徴や釜炒り製法について解説するほか、嬉野茶のおいしい入れ方についても解説していきます。
ぜひ、参考にしてみて下さい。
嬉野茶とは?
まずは、嬉野茶の主な産地や旬の時期について解説していきます。
主な産地
嬉野茶の主な産地は、佐賀県嬉野町、長崎県東杵(ひがしそのぎ)町です。
嬉野町は、佐賀県の南西部に位置し、山間部は昼夜の寒暖差が大きく霧が発生しやすいことからお茶の栽培に適しており、古くからお茶の栽培が盛んに行われていました。
東杵町は、嬉野町に隣接する産地で、大村湾を望む山間部でお茶の生産が盛んに行われ、こちらも霧が発生しやすく古くからお茶の産地として知られていました。
歴史
嬉野茶の起源は平安時代にまでさかのぼり、宋での禅の修行を終えた栄西(えいさい)禅師がお茶の種を持ち帰り、禅道場の畑にまいたのが始まりとされています。
室町時代に入ると紅令民によって南蛮釜が伝えられ、中国式の釜炒り製法が広まったと言われています。
江戸時代には国外に輸出されるようになり、幕末期に入ると盛んに輸出されるようになります。
2004年には日本茶業中央会によって、佐賀、長崎県で生産された原料茶を100%使用して仕上げた統一銘柄を「うれしの茶」、嬉野茶を50%以上100%未満でブレンドしたお茶は「うれしの茶ブレンド」とすることが定められ現在に至ります。
旬の時期
嬉野茶の旬は、4月中旬から5月上旬ごろの時期です。
一般的にお茶は年に数回収穫が行われ、その年の1番最初に収穫されたお茶を1番茶(新茶)、以降、収穫された順に、2番茶、3番茶と呼ばれます。
お茶の中で最も茶葉の品質が高いのは1番茶で、2番茶、3番茶と徐々に茶葉の品質が低くなっていきます。
嬉野茶の産地では、4月の20日前後から約3週間にわたって新茶の収穫を行っており、この時期に収穫されたものが最も旬な嬉野茶ということになります。
製造工程
嬉野茶の産地では玉緑茶の生産が盛んで、一般的な煎茶とは製造方法が少し異なります。
蒸し製玉緑茶の製造工程は以下のようになっています。
- 収穫
- 蒸熱
- 冷却
- 葉打ち
- 粗揉
- 揉捻
- 中捻
- 乾燥
- 荒茶完成
一般的な煎茶の製造工程には、中捻の後に精揉という茶葉の形を細長く整える工程がありますが、蒸し製玉緑茶には精揉の工程がありません。
そのため、 玉緑茶は一般的な煎茶よりも丸みを帯びた形になります。
代表的な品種
嬉野茶に使用される代表的な品種を3種ご紹介します。
やぶきた
国内で最も生産量が多い品種で、嬉野茶の産地でも生産量が最も多く、約80%を占めています。(出典:嬉野市 No.5「お茶の品種」)
やぶきたは、杉山彦三郎によって在来種から選抜された品種で、茶園の北側にある藪を切り開いた場所に植えられていたことから、やぶきたと名づけられたといわれています。
渋みと甘みのバランスの良さが特徴の品種です。
あさつゆ
あさあつゆは、濃厚な旨味と甘味から天然玉露とも呼ばれており、宇治の在来種から選抜された品種で、主に高級茶向けに生産されています。
また、お茶にした時の水色(すいしょく)が美しいのもあさつゆの特徴で、生産量は多くないものの、その味わいから人気の高い品種です。
さえみどり
さえみどりは、やぶきたとあさつゆを交配して開発された品種で、上品な香りと渋みの少なさが特徴の品種です。
品質が優れていることから生産量が増加しており、もともとは九州で盛んに生産されていた品種ですが、現在では、ほかの地域での生産量も増加しています。
嬉野茶の特徴
嬉野茶の特徴は「伝統的な釜り製法」と「強い旨味」で、これら2つの特徴について解説していきます。
伝統的な釜炒り製法が残る
嬉野茶の産地では、現在でも伝統的な釜炒り製法で作られた釜炒り製玉緑茶が生産されています。
茶葉は収穫後、酸化酵素の働きによって徐々に発酵が進んでいきますが、この発酵を止めるために一般的な煎茶では蒸気で熱を加えて、発酵を止めています。
釜炒り製法とは、蒸気ではなく釜で茶葉炒ることで発酵を止める製法で、昔は釜炒りが嬉野での主流でした。
現在では蒸気で加熱する方法が主流で、釜炒り製玉緑茶の生産量は、嬉野茶全体の5%以下になってしまいましたが、保存会などによって伝統的な釜炒り製法が今でも守られ続けています。
強い旨味
嬉野茶の特徴は、旨味が強いことです。
ほかの産地のお茶と比較して旨味成分が多く含むとする調査(出典:佐賀県 佐賀県の特徴的な茶種 釜炒り茶と玉緑茶)があり、流通業者による官能評価も高い傾向にあります。
旨味成分の多さだけがお茶のおいしさを決めるわけではありませんが、嬉野茶は強い旨味と飲みやすさが評価されています。
嬉野茶の種類
嬉野で生産されている3種類のお茶をご紹介します。
蒸し製玉緑茶
嬉野周辺で最も多く生産されているのが蒸し製玉緑茶です。
釜炒り製玉緑茶と比較すると渋味が少し強いですが、一方で旨味が強いのが特徴です。
茶葉が丸まって、勾玉のような形をしていることからグリ茶とも呼ばれ、丸まった茶葉が開くまで何度も入れることができます。
釜炒り製玉緑茶
釜炒り製玉緑茶は、先に解説した通り生産量が少ない貴重なお茶です。
釜で加熱することで生まれる釜香(かまか)と呼ばれる香ばしい香りと、さっぱりとした味わいが特徴です。
釜で炒る工程以外は、蒸し製玉緑茶と基本的に同じ工程を経て作られ、精揉しないためこちらも丸みを帯びた形になります。
玉露
嬉野では生産量が少ないものの玉露も生産されています。
玉露は、収穫前に20日ほど茶葉に当たる日光を遮って栽培することで、茶葉の旨味を強くした緑茶の一種です。
丁寧に手摘みで収穫することで、硬い葉や茎の部分が少なく茶葉のおいしい部分だけ使って作られます。
非常に手間がかかるため、緑茶の中でも高価な部類に入るお茶のひとつです。
嬉野茶の入れ方
嬉野茶の中でも最も多く生産されている玉緑茶の入れ方をご紹介していきます。
玉緑茶
玉緑茶の入れ方は、一般的な煎茶と同じですが、釜炒り製玉緑茶は熱いお湯で入れるとより香りが立ちます。
分量(3人分)
- 茶葉6g
- お湯240cc
入れ方
- 急須にお湯を注ぐ
- 急須から茶碗にお湯を移す
- 急須の余ったお湯を捨てる
- 用意した茶葉を急須に入れ、茶碗のお湯を急須に戻す
- 30秒程浸出させる
- 茶碗に少しずつ廻し注ぎして、最後の一滴まで注ぐ
最初に急須や茶碗にお湯を移すことで、急須や茶碗を温めながら、お湯の温度を適温に下げることができます。
2煎目、3煎目を入れる際は1煎目より味が出にくいため、お湯の温度を徐々に高くしましょう。
水出し
水出しで入れると茶葉から溶け出す渋味成分が少なくなるため、旨味や甘味が強調された味わいになります。
水出しで入れる手順は次の通りです。
分量
- 茶葉10g
- 水1L
入れ方
- ティーバッグに用意した茶葉を詰める
- ボトルにティーバッグを入れて水を注ぐ
- 冷蔵庫で3から4時間を目安に浸出する
ときどき味を見ながら好みの濃さになるように、浸出時間を調整しましょう。
まとめ
- 嬉野茶の旬は4月中旬から5月上旬ごろ
- 蒸し製玉緑茶の生産量が最も多い
- 伝統的な釜炒り製法が今も残っている
- 旨味が強い
嬉野茶の特徴やおいしい入れ方についてご紹介してきましたが、嬉野茶がどのようなお茶なのかお分かりいただけたのではないでしょうか。
玉緑茶をまだ飲んだことがない方は、嬉野の玉緑茶を試してみるとよいでしょう。