皆さん「碾茶」という種類のお茶をご存じでしょうか?
少し難しい読みですが、碾茶と書いて「てん」茶と読みます。
この「碾」という字は挽く行為を表していて、名前の通り粉砕するためのお茶であることを意味しています。
緑茶の中でも揉まずに乾燥させたお茶で抹茶のもとになる原料が碾茶です。
今回はよく知られている煎茶(せんちゃ)などとの違いを含めて、碾茶の特徴や飲み方について解説していきます。
碾茶とは?

蒸し製緑茶の一種で抹茶の原料である碾茶ですが、どのような使い方をされるのか、また製造方法についても細かく解説していきます。
抹茶のもとになるお茶
茶道などでよく使われる抹茶ですが、この原料が碾茶です。
碾茶を石臼あるいは微粉砕機で細かく挽いたものが抹茶と呼ばれ、茶道や飲料、お菓子やアイスクリームなどのスイーツにも使われていますよね。
煎茶のように茶葉を揉む工程が無いため、見た感じは青海苔に似ていて香ばしい香りがします。
碾茶の原料
煎茶や玉露などと同じお茶の木が原料で、以前は樹齢75~85年ぐらいの古い木や樹齢4~16年ぐらいの若い木から摘採したお茶の葉が使われていました。
近年は、品種(さみどり・こごう・あさひ・やぶきた)の選定や肥培管理、被服の期間を調整するなど様々に工夫した茶葉で作った碾茶があります。
また被覆するため玉露のようなかぶせ香りがあります。
栽培方法
碾茶は玉露と同じように、茶園をよしずや藁で一時的に覆い日光を遮る形で栽培されます。
日光を浴びて光合成が行われると渋み成分のカテキンが増加し、反対に遮光して光合成を抑えると旨み成分であるテアニンの比率が増えます。
玉露や碾茶はこの被覆(かぶせ作業)によって光合成を抑制するためテアニン(うまみ成分)が多く含まれる茶葉となるのです。
玉露の遮光期間は摘み取り前3週間、碾茶は摘み取り前1週間~10日前後が一般的ですが、産地や環境等で差異がある場合もあります。
旨味・甘味成分が多い
アミノ酸の一種で旨味や甘味を感じられるテアニンは、被覆作業を行う碾茶や玉露に多く含まれ、リラックス効果や集中力を高める効果もあります。
また被覆作業により抑制されるカテキンは煎茶に多く含まれ、程よい渋みとさわやかな香りが煎茶の特徴です。
碾茶もそのまま飲めるので、煎茶と飲み比べてみるのもおススメです。
碾茶の作り方

被覆作業など製造方法にも違いがありますので、ここからは碾茶の作り方について解説していきます。
①摘採
お茶の樹は前年の摘採が終わるとすぐにに台刈りされ、その後一年の月日の間に徐々に枝葉を伸ばし、およそ地上1.3mくらいになるまで成長させます。
被覆後、柔らかな新芽に適度な張りがでたら摘み取りますが、需要に合わせて年2~3回の摘採を行います。
②加湿・送風
摘採した生葉には品質・鮮度を保つため、湿度の高い空気を送ります。
これは摘採した生葉をほっておくと、すぐに発酵が始まってしまい熱をもってしまうためです。
つまり空気を送ることで水分が保たれ熱を抑えることができるわけです。
③蒸熱
網胴回転攪拌型蒸機と呼ばれる機械に連続で流し、煎茶より短い時間で蒸します。
緑茶のほとんどがこの工程を経ますが、蒸すことで色合いを良くし、香りを引き立たせることができます。
ちなみに、蒸し時間を長くすることで抹茶の色を濃くすることもできます。
④攪拌・冷却
蒸された茶葉はすぐ後に散茶機に送られ、重ならないよう拡散させながら吹き上げ・下降を繰り返し冷却します。
これも蒸した後の熱で色や香りを損なわないための工程です。
散茶機は高いほど高低差によって冷却効果がでるため、5~7mほどにもなります。
⑤乾燥
散茶機から出た茶葉は170~200度ほどの碾茶炉(輻射熱を利用したレンガ造り)の中に通し、30分ほど乾燥させます。
10mほどの碾茶炉の下にもレンガ造りの火炉があり、ここから熱が全体に送られ温度を高めています。
また、3~5層に分け段階的に緩やかに乾燥させることで、香味のバランスをとることができるのです。
⑥つる切り
乾燥後の茶葉はつる切り機械に通し、茎の部分と葉の部分に分けられます。
これは葉の部分に比べ茎部分は乾燥が遅いので水分が残っているからです。
⑦再乾燥
水分が多い茎部は乾燥しにくいので再度乾燥機に通し、細かい葉の部分と骨と呼ばれる硬い部分を風力で分離させます。
⑧梱包
最後に機械で茶葉を均一に混ぜ合わせ、大海袋に詰めて出荷します(20㎏程度)。
大海袋とは荒茶を入れて運ぶための大きな紙の袋のことで、強度を保つために二重になった紙の間にビニールが挟まれ造られています。
碾茶の飲み方

そのまま飲む方法も前述で少し触れましたが、碾茶の飲み方には色々な方法があります。
必要な道具をはじめ、抹茶の点て方や抹茶ラテの作り方など、美味しく碾茶を楽しむ方法をご紹介したいと思います。
必要な道具
おおまかには、茶筅(抹茶をお湯と混ぜ泡立たせるもの)・抹茶ぢゃわん・茶杓(ちゃしゃく)・湯冷まし・茶こしなどがあり、専用のものでなくても他で代用できるものもあります。
抹茶ぢゃわんはサラボウルなどでもいいですし、湯冷ましは計量カップ、茶杓は計量スプーンでも大丈夫です。
また碾茶から抹茶を作るのであれば挽くためのミルも必要です。
碾茶をミルで挽く
「ミル」には挽くものによって様々な種類があり、それぞれに合った細かさになるよう作られています。
煎茶でも碾茶でもお茶を挽くときには専用のお茶ミルでないと細かな粉末になりませんので、ほかの食材の混入を避けたり風味を生かすためにも専用のお茶ミルを使うことをおススメします。
一般的な手動式お茶ミルは石臼型のセラミック刃が付いていて、調整することで粉末を細かくしたり荒くしたりできます。電動式のものもありますので用途によって選んでみてください。
ちなみに手動式は手で低速で挽くので熱が入らず風味や栄養を逃しにくいというメリットがあり、電動式は手動に比べて手間と時間がかからず、一度に多くの茶葉を挽けるメリットがあります。
抹茶の点て方

※お好みで抹茶の量やお湯の量・温度を調節してください。
材料
- 抹茶の量…茶杓2杯(1.5g)
- お湯の量…約70㏄
温度
- お湯の温度…冬場は熱湯を湯冷ましに一回移して冷まします。(75~85℃)夏場は湯冷ましに二回移して冷まします。(70~80℃)
点て方
- 抹茶を細かくふるう…一度茶こしでふるったほうがだまが少なく泡立ちやすくなります。
- お湯の準備 …湯冷ましで適当な温度に冷ましてから使うと美味しくいただけます。(冬は熱めで夏は少し低い温度がおススメです。)
- 点て方…こした抹茶とお湯を入れたら初めに抹茶を分散させるようにゆっくり混ぜ、次にお湯が回らないように手首を前後に素早く振ります。
泡がたったらゆっくりと茶筅を引き上げます。(泡を均等に細かくするために茶筅を表面でゆっくり動かしたり、茶筅の引き揚げ方で中央が盛り上がった見た目にすることができます。)
抹茶ラテの作り方

材料
※抹茶の濃さや甘さなど、分量はお好みで調整してみてください。
- 牛乳または豆乳…130ml
- 抹茶…小さじ1杯(3g)
- 砂糖…小さじ1杯(5g)
- お湯…40ml
作り方
- 抹茶を点てます。(点て方は前述したものを参考にしてみてください。)
- 牛乳または豆乳を鍋で温め砂糖を溶かします。(砂糖が焦げたり牛乳の膜を防ぐためにゆっくりかき混ぜながら温めてください。)
- 1と2を陶器グラスや容器に入れ混ぜ合わせれば出来上がりです。
※個人的には温めた牛乳を先にいれ後から抹茶を注ぎ、かき混ぜずに飲むほうが抹茶の風味を味わえて美味しく感じました。
碾茶はそのままでも飲める?
碾茶は揉む作業は行っていないですが立派な蒸し製の緑茶です。もちろんそのまま飲むこともできます。
一応は飲むことができますが、煎茶と異なり「揉む」という作業を行っていない碾茶はお湯を注いでも短時間では抽出されにくいお茶です。 ですのでそのまま飲む場合は煎出時間を長くします。
時間をかけて抽出していくと茶葉本来の成分がじっくりと染み出し、一煎目では上品な旨味、二煎目では甘みのあるすっきりとした後味が楽しめます。
まとめ

今回は抹茶の原料となる「碾茶」について解説してきましたが、いかがでしたか?
見た目は青海苔のようですが、最近はスイーツや料理など様々な形に変化して使われているので、 名前は知らずとも 一度は口にしていることがあったのではないでしょうか。
碾茶は手作業で行っていた乾燥工程が明治初めころ機械化され、今では碾茶炉と呼ばれる碾茶専用の乾燥機械で碾茶を量産できるようになりました。
ですので、今はいろんな栽培方法の碾茶がインターネットなどでも手軽に手に入るようになっています。ぜひ一度手に取り、ご賞味いただけると幸いです。