お茶の木は亜熱帯性の植物で、奥久慈茶(おくくじちゃ)が生産されている茨城県大子町周辺は、お茶の生産地としては北限に位置しており、お茶の栽培に最適な気候というわけではありませんが、高品質なお茶を生産し続けている歴史ある産地です。
そのため、「なぜ、奥久慈茶の産地では、高品質なお茶が生産できるのだろう?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
この記事では、奥久慈茶の特徴や品種についてご紹介するほか、品質高いお茶を生産できる理由について解説していきますので、ぜひご覧ください。
奥久慈茶とは?
まずは奥久慈茶がどのようなお茶なのか、産地や歴史について解説していきます。
産地
奥久慈茶の産地は茨城県大子町周辺で、この辺りの地域は奥久慈と呼ばれているため、この地で生産されたお茶を総称して奥久慈茶と呼んでいます。
奥久慈茶は、大子町を流れる久慈川の源流がある八溝山地周辺の山間部で栽培されています。
水はけのよい土壌と日当たりの良さから古くからお茶が栽培されていました。
お茶の木は熱帯性の植物で、大子町はお茶の産地としては寒冷な気候であるため、お茶の栽培に最適な環境というわけではありません。
しかし、厳しい寒さのおかげで害虫が少なく、少ない農薬でお茶を栽培できるためこの地域のお茶農家の多くがエコファーマーの認定を受けています。
北限のお茶
奥久慈茶は、村上茶と並び北限のお茶としても知られています。
村上茶の産地である新潟県村上市は、日本海側のお茶の集散地の北限として知られていますが、大子町は、太平洋側の北限とされ、村上市と大子町を結んだラインが日本の商業的なお茶の産地の北限とされています。
新茶の時期
その年によって若干前後しますが、奥久慈茶の新茶の時期は、おおむね5月中旬から6月中旬頃です。
先にご紹介したとおり、大子町はお茶の生産地としては北限に位置しており、静岡県などの温暖な産地と比較すると1ヵ月程遅くなります。
新茶の収穫後、1ヵ月程でその年の新茶を使ったお茶が流通し始めます。
歴史
奥久慈茶の起源については諸説ありますが、最も古いものは室町時代の末期に、大子町北部にあった左貫という村の西福寺の僧侶が、京都の宇治からお茶の種を持ち帰って植えたという説です。
当時のお茶の生産技術は低く、一時衰退の危機にありましたが、江戸時代末期に宇治の生産技術が取り入れられるようになり、品質が徐々に向上していきました。
明治以降になると近代的な生産技術が取り入れら、高品質なお茶の産地としてその名が知られるようになっていきます。
大子町周辺の地域は保内郷と呼ばれていたため、当時は「保内郷茶」という名前で流通していましたが、昭和の市町村合併をきっかけに、奥久慈茶と呼ばれるようになり現在に至ります。
奥久慈茶の品種
奥久慈茶の産地で栽培されているお茶の品種について解説していきます。
やぶきた
やぶきたは煎茶用の品種として品質が優れており、全国で最も生産量が多い品種で、大子町周辺でもやぶきたが最も多く生産されています。
やぶきたは、在来種の中から選抜された品種で、明治時代に静岡県の杉山彦三郎によって発見されました。
やぶを切り開いた北側の茶園で栽培されていたことから、やぶきたと命名されたと言われています。
ほくめい
さやまみどりと埼玉13号という品種を交配して生み出された品種で、寒さに強く寒冷地での栽培に向いています。
やぶきたと同等の品質とされ、コクのある味わいと深緑色が特徴で、埼玉県茶業試験場で開発されました。
北限の産地で普及してほしいという願いを込めて、ほくめいと命名されました。
ふくみどり
ふくみどりは、やぶきたとさやまみどりを交配して作られた玉露用の品種です。
寒さに強く寒冷な地域での栽培に向いている品種で、高級茶向けの茶葉として栽培されています。
奥久慈茶の3つの特徴
奥久慈茶には「伝統的な手もみ製法」「品質重視」「香りと強い渋み」という3つの特徴があります。
ここでは、それぞれの特徴について解説していきます。
伝統的な手もみ製法
奥久慈茶が生産されている大子町周辺では、現在でも手もみ製法による製茶が一部で行われています。
現在では機械を使った製茶が一般的ですが、手もみ製法は茶葉を人の手で揉む昔ながらの製茶方法です。
大子町には、この手もみ製法の技術を持つ職人が数多く存在しており、現在でも職人によって手もみで作られたお茶が、手もみ茶として販売されています。
品質重視
奥久慈茶は品質を重視しており、基本的に1番茶を使って作られています。
もともと、大子町周辺はお茶の栽培面積が他の産地より少なく、生産量で他の産地に対抗するのが難しかったため、品質を重視した高級茶の生産が盛んです。
お茶の葉は暖かい地域では1年に3から4回ほど収穫が行われ、収穫された順に1番茶、2番茶、3番茶と呼びます。
その中でも1番茶は最も品質が優れており、2番茶や3番茶と比べる旨味が強いのが特徴です。
品質を重視して作られているため、奥久慈茶の生産量は少なく年間120t程となっています。
また、奥久慈茶は茶葉の摘み方にもこだわっています。
お茶の葉を摘む方法には、手摘みと機械を使った方法の2種類があります。
手摘みは手間がかかるものの、人の目で見てやわらかい茶葉だけを選んで摘み取るので、硬い葉が混ざらず茶葉の品質が高くなります。
近年、他の産地では機械を使って茶葉を刈り取ることが多いですが、大子町周辺では、品質を優先して1番茶は手摘みで収穫されることが多いのも特徴です。
香りと強い渋み
奥久慈茶の特徴は強い香りと渋味にあります。
また、お茶を入れたときの水色(すいしょく)が濃いのも特徴です。
他の産地と比較すると茶葉が厚く育つため、2煎目、3煎目でも味が薄くなりにくく、おいしく味わくことができます。
奥久慈茶の種類
奥久慈茶の多くは高級煎茶に加工されますが、煎茶以外の茶種もいくらか生産されています。
ここでは奥久慈茶の茶種について解説していきます。
煎茶
煎茶は、蒸した茶葉を揉みながら乾燥させたお茶で、日本人にとって最も馴染みの深いお茶のひとつです。
煎茶は茶葉を蒸す時間によって、浅蒸し煎茶と深蒸し煎茶に分けることができます。
奥久慈茶のほとんどは蒸し時間が短い浅蒸し煎茶に加工されますが、深蒸し茶もわずかに生産されているほか、浅蒸しと深蒸しの中間の中蒸しのお茶も生産されています。
玄米茶
大子町は米の生産地でもあり、同地域で生産された玄米を使った玄米茶も作られています。
玄米茶は、干飯を高温で炒ったものを煎茶や番茶とブレンドしたお茶で、玄米だけではなく、もち米や白米が使われることもあります。
お茶の爽やかな香りと炒った米の香ばしい香りが玄米茶の特徴です。
紅茶
紅茶というと外国産の茶葉を使用した銘柄が多いですが、近年、大子町周辺では新しい取り組みとして紅茶の生産も行われています。
お茶の種類は発酵の度合いによって、いくつかの種類に分けられます。
緑茶は茶葉を発酵させずに作る不発酵茶、紅茶は茶葉を完全に発酵させる発酵茶に分類されます。
奥久慈茶は煎茶にすると渋味が強いですが、紅茶にする際は丁寧に発酵させることで渋味を抑え、甘味を引き立てているのが特徴です。
まとめ
- 奥久慈茶は茨城県大子町周辺で生産されるお茶
- 奥久慈茶の新茶の時期は5月中旬から6月中旬頃
- 奥久慈茶の特徴は、「伝統的な手もみ製法」「品質重視」「強い渋味と香り」にある
奥久慈茶についてご紹介してきました。
暖かい地域で生産されるお茶とは違った味わいのある北限のお茶を、一度試してみてはいかがでしょうか。
日本海側の北限のお茶である村上茶について知りたい方は、下記の記事もぜひご覧ください。